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役員賠償責任保険(D&O保険)とは?(事例・比較)

投稿日:2020年6月12日 更新日:

役員賠償責任保険」とは、会社の役員が、責務を怠ったとして会社や株主、取引先などの第三者から損害賠償責任を追及された際に、賠償金や訴訟費用を補償される保険です。

なお、この「役員賠償責任保険」は「D&O保険」と呼ばれます。「D&O」とは「Directors and Officers」の略で、取締役や監査役といった会社役員をさします。

このページでは、会社役員がどのような賠償リスクを持っているか、そして、そのリスクに対する保険である「役員賠償責任保険(D&O保険)」について解説します。

 

会社役員に課される責任

会社に対する責任

会社役員の最大のミッションは、会社の健全な運営するために正しい経営判断することです。会社役員の責任は以下のように会社法に記載されています。

会社役員の責任内容
善管注意義務・
忠実義務
取締役として相当な注意を尽くして業務を遂行しな
ければならない。
競業避止義務取締役会の承認なしに、会社の業種と同じ仕事を自分
で経営してはならない。
利益相反取引
回避義務
取締役会の承認なしに、会社に物を売ったり、会社に
自分の借金の保証人になってもらったりしてはならない。
監視・監督義務他の取締役の行為がきちんと法令。定款に則って仕事
をしているか、監視しなければならない。

会社役員(取締役)は自分自身が健全な会社運営をするだけでなく、他の役員が暴走しないように監視・監督する義務もあります。

 

第三者(取引先や株主)に対する責任

取引先や株主等、会社以外の第三者からも損害賠償責任を追及される可能性があります。

たとえば、業務上の過失により取引先等の第三者に損失を与えてしまった場合、それは会社役員の責任になります。また、社員が不正な取引を行い、それが原因で株価が下落してしまった場合、株主は大きな損失を受けることになります。この責任は役員の監督不行き届きによるものです。

なお、取締役の第三者に対する責任については、会社法に特別の定めがあり、第三者は、取締役の過失が重い場合には取締役の責任を民法上の不法行為責任よりも追及しやすくなっています。

 

会社役員が賠償責任を負った事例

会社役員が賠償責任を追うのは、不特定多数の株主を抱える上場企業のみであるとお考えになる方も多いと思います。しかし、中小企業の場合であっても賠償責任問題が発生するリスクはゼロではありませんし、実際に多くの事例が生まれています。

会社からの
賠償請求
役員が従業員に指示した不正会計により会社に損害をもたらした。会社が役員を相手取って損害賠償請求を行なった。
(不正を指示した役員だけではなく、不正を防ぎきれなかったとして、任務懈怠により他の役員も対象となった)
取引先からの賠償請求取引先に欠陥商品を販売してしまい、それに対する損害賠償を取締役個人が求められた。
株主からの
賠償請求
従業員の不正取引に関して取締役としての監視・監督義務を果していないと、株主から損害賠償を請求された。
株主からの
賠償請求
従業員がインサイダー取引を行い、会社の社会的信用が失墜したとして、株主から損害賠償を請求された。
従業員遺族からの賠償請求従業員が過労死し、長時間労働を放置したとして、取締役は任務懈怠責任違反で、遺族から損害賠償を請求された。

 

このように役員が負った賠償責任を補償する保険として、「役員賠償責任保険(D&O保険)」があります。

役員賠償責任保険(D&O保険)」とは

役員賠償責任保険(D&O保険)」とは、「役員が会社や第三者から賠償責任を求められた時に補償される保険」です。

よく勘違いされているのが、「会社」が訴えられた場合に備える保険ではなく、「役員個人」が訴えられた場合に備える保険であるということです。

大きくは次の3つの訴えに備える形の保険となっています。

1.第三者訴訟
2.株主代表訴訟
3.会社訴訟

補償内容

法律上の損害賠償金

損害賠償金とは、法律上の損害賠償責任を求められた時に支払う賠償金や和解金等のことをいいます。

各種訴訟費用

争訟費用とは、弁護士に支払う着手金や報酬金などや裁判所に支払う印紙代や、訴訟を起こすための準備にかかった調査費用、文書作成費用などが含まれます。

大企業であれば顧問弁護士がいらっしゃるかもしれませんが、会社訴訟や株主代表訴訟については顧問弁護士を使うことができません。したがって、裁判にかかる弁護士費用についても全て役員の自己負担となりますので、この保険に存在意義をもたらします。

その他の費用

特約を付帯することで、訴訟費用の他にも以下のような費用を補償することが可能です。

  • 役員の負担する賠償金に対して、会社が肩代わりした費用
  • 不祥事が発生した場合に、内部調査を行うために会社が負担した費用
  • 会社の評判が回復するため、コンサルティング会社に支援を受けるための費用
  • 社外役員向けの上乗せ費用

退任役人の扱い

退任した役員については、保険期間末日10年間延長期間が設けられています。在任中の行為で、10年間以内であれば損害賠償を求められることがあるため、このような延長期間が設けられています。

 

保険料の会社負担(損金算入)

2015年7月、経済産業省は、「会社法において取締役会議などで一定の手続きを行えば、会社は会社役員賠償責任保険の保険料を全額負担しても問題なし」との解釈が示されました。また、2016年2月、国税庁は税法上の取扱いについて、保険料の全額を会社が負担した場合でも役員の給与とは扱わず、役員個人への所得税の課税は行わないことが発表されました。

会社が役員個人の代わりに役員賠償責任保険の保険料を負担した場合、会社の損金にできるようになりました。

現在はこの制度を使い、加入しているほとんどの企業が、会社で保険料を負担して、損金を算入しています。

なお、厳密には「役員賠償責任保険(D&O保険)」は、会社負担部分と役員個人負担部分が補償対象によって、分離されております。会社負担部分は通常の保険同様に損金算入されます。

参考:国税庁HP[新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)]

 

最後に

役員賠償責任保険(D&O保険)」とは、会社の役員が、責務を怠ったとして会社や株主、取引先などの第三者から損害賠償責任を追及された際に、賠償金や訴訟費用を補償される保険です。

責務を怠ったのだから、役員個人が悪いと考えがちではありますが、実際のところは会社法上の役員の責任は極めて重いものになっています。さらに、他の役員が責務を怠っていたことを監視・監督できていなかっただけも責任を負わされます。どんなに気をつけていても損害賠償請求されることもあり得ます。

したがって、会社役員が勇気をチャレンジするために必要な保険です。なお、この保険は役員個人では加入できないため、会社での加入しなければなりません。会社役員のために会社の保険担当者は加入を検討して欲しいところです。

 

 

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