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日経TESTの5つの評価軸の1つのKnowledge(実践知識)では、ビジネスパーソンが課題解決のために必要な実践的な知識が身についてるかどうかを測る評価軸です。この評価軸でよく出題されるのが、「巨大IT規制(GAFA・独占禁止法)」です。このページでは「巨大IT規制(GAFA・独占禁止法)」についてよく出題される部分について解説していきます。
日経TESTに関しては、以下のリンク先をご確認ください。
巨大IT企業の規制
IT分野で国家を越えた経済圏を築き上げた巨大IT企業「GAFA」に対して、市場をゆがめているとの批判が高まっています。世界中で独占禁止法の違反を使った厳しい規制が行われ始めています。
GAFAに対する指摘事項
・検索サービスで自社のサービスを優先表示 ・端末メーカーに対し自社の検索サービスの標準設定を義務付け ・競合するサービスの検索広告を表示しないように第三者サイト に義務付け | |
Apple | ・アップルストアで開発者に高額な販売手数料を義務付け、 自社サービスを優遇 ・電子決済で競合他社のサービスの利用の制限 |
・「インスタグラム」や「スナップショット」で競合サービス の買収でSNS市場を独占 ・買収先の企業から収集した顧客情報を自発的な同意なく 統合・利用している | |
Amazon | ・ECサイトに出店する企業の顧客データを利用して、自社 商品の販売を促進 |
アメリカにおける巨大IT企業の規制
米国では、消費者の利益が守られているのであれば競争法違反としないという考え方が主流でした。その結果、独占的な地位を有する事業者に対して比較的寛容で法執行をしてこなかった歴史があります。
潮目が変わったのは最近です。2018年にフェイスブックの個人情報が不正利用され2016年の米大統領選挙の世論操作に利用されたとされる「ケンブリッジ・アナリティカ事件」が発覚したことがきっかけです。
2019年からは米国の競争法執行機関である司法省や連邦取引委員会(FTC)も調査を始めました。
各国当局は濃淡はあるが、巨大IT企業のもたらす独占力が市場の競争環境をゆがめており、放置しておくわけにはいかないという問題意識は共有している。
2020年7月には、GAFA首脳のグーグルのピチャイCEO、アップルのクックCEO、フェイスブックのザッカーバーグCEO、アマゾンのベゾスCEOが出席させ、米議会下院の公聴会にオンラインで実施しました。
2020年10月には司法省などがグーグルを提訴しました。端末メーカーなどに自社の検索サービスを標準設定させたことなどを問題視しています。2020年12月にはFTCなどがフェイスブックを提訴した。画像共有アプリ「インスタグラム」などの過去の買収を問題視し、事業売却を求めました。
アメリカにおける巨大IT企業の規制の流れは以下の通りです。
2019年6月 | 連邦議会下院の司法委員会がGAFAへの調査を開始 |
2019年7月 | 連邦取引委員会(FTC)、個人情報の不正流用で 50億ドルの制裁金でFacebookと和解 |
2020年7月 | 連邦議会下院の司法委員会がGAFAに対するオン ライン公聴会の実施 |
2020年10月 | 司法省や州司法長官がGoogleを提訴 |
2020年12月 | 連邦取引委員会(FTC)などがFacebookを提訴 |
2021年予定 | 司法省やFTCがAmazon、Appleなどを提訴する のではないかと言われている |
2021年予定 | 連邦議会、通信品位法改正などを審議するので はないかと言われている |
バイデン新政権下の米国での動き
バイデン新政権下の米国では、巨大IT企業「GAFA」への規制や法執行が強化されるとの見方があります。その根拠は、2020年11月に非営利の調査機関が出した、今後の米国の競争政策への提言書です。筆頭執筆者のビル・ベア氏が元司法省反トラスト局長で、バイデン氏の政権移行チームで司法省とともに競争政策を担う米連邦取引委員会(FTC)の分野を担当することになっているため、バイデン新政権下で規制強化の方向に進むのではないかと見方が高まっています。
提言書の中で執行体制の拡充が強調されています。具体的には、❶FTCと司法省の予算の大幅引き上げ、❷国家経済会議(NEC)内に競争政策担当部署を新設し、❸反トラスト法(独占禁止法)の改正です。現在、米国の独禁法の違反認定のハードルは欧州よりも高いと言われており、2021年に反トラスト法(独占禁止法)が改正されて、欧州並の規制が行われるのではないかという見方があります。
米国議会のねじれ状況が続いていますが、民主党はGAFAの分離案など厳しい規制の導入を主張する一方、共和党はインターネット企業の責任の範囲を限定する「通信品位法230条」の改正が必要だと主張しています。政権交代の影響で競争当局のメンバーが刷新される見込みで、事態は流動的のため、今後の両党の動きが注目されます。
欧州における巨大IT企業の規制
巨大IT企業に対する競争法違反において最も厳しいのが、欧州連合(EU)です。EU競争法は、支配的事業者による競争を妨げる行為などを支配的地位の乱用として禁じていることが特徴です。このような法律の特色により、巨大IT企業への規制も厳しいと言われています。
欧州における巨大IT企業の規制の流れは以下の通りです。
2017年〜 | 欧州委員会がGoogleに対して競争法違反で 制裁金命令を実施(計3回) |
2019年2月 | ドイツ競争当局がFacebookにデータ収集制限を 命令した |
2020年6月 | 欧州委員会がAppleへの競争法違反の調査を開始 |
2020年12月 | 欧州委員会がデジタル市場法などの2法案を公表 |
2021年予定 | 欧州議会などで2法案を採択するのではないかと 言われています |
欧州における今後の展開について
欧州では、さらに巨大IT企業に新たな規制を設けようという動きがあります。2020年12月、欧州委は「デジタルサービス法」と「デジタル市場法」という2つの法案を公表しました。一定の影響力のあるIT企業に対し事前規制を設け、違反時には巨額の罰金を科すものです。GAFAをはじめとする巨大IT企業のビジネスに大きな影響を与えうる言われています。
日本における巨大IT企業の規制
公正取引委員会は2019年、オンラインモール事業者などの取引実態調査を公表しました。プラットフォーム事業者が不当に利用者の個人情報を利用することは独禁法が禁ずる「優越的地位の乱用」となりうるとの考え方を示しています。
2019年12月公正取引委員会は、合併や買収などの「企業結合」についても、独禁法の運用指針をデジタル市場を考慮したものへと改定しました。アマゾンジャパンや民泊の仲介での世界最大手のエアビーアンドビーなどへの立ち入り検査に踏み切ったものの、行政処分は見送られました。
2021年春までに「デジタルプラットフォーム取引透明化法」を施行することになっています。大手オンラインモール事業者などに自主的に健全な取引を促す内容で、契約変更などがあれば取引事業者への事前の理由の説明などを求めることになります。事前に違反行為を抑止する取引透明化法と事後規制の独禁法は相互補完する関係になると言われています。
日本における巨大IT企業の規制の流れは以下の通りです。
2019年10月 | オンラインモール事業者などの取引実態調査を公表 |
2019年12月 | 公正取引委員会は、企業結合ガイドラインの改定 |
2020年4月 | 公正取引委員会は、デジタル市場企画調査室を新設 |
2021年予定 | デジタルプラットフォーム取引透明化法の施行 |
(参考)競争法とは
資本主義市場において公正で自由な競争の実現を目指すために独占的な行為や不正行為を取り締まる法律の総称のことです。日本をはじめとして米国、欧州など各国それぞれ独自の法律と専門の執行機関があります。
米国では反トラスト法と総称され、司法省反トラスト局と連邦取引委員会(FTC)などが執行します。欧州連合(EU)はEU機能条約(EU競争法)が規定し、欧州委員会が執行します。日本では独占禁止法が相当し、公正取引委員会が執行機関となっています。