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化学物質には、労働者の健康に悪影響を及ぼすものが多く存在します。労働安全衛生法では、労働者の健康障害を防止するために、一定の物質について、「製造等の禁止」、「製造の許可」、「(ラベル)表示」等の規定を設けています。このページでは、「製造等の禁止」、「製造の許可」、「(ラベル)表示」について解説します。
①製造等の禁止 | ②製造の許可 | ③表示等 |
重度の健康障害を生ずる物 | 重度の健康障害を生ずるおそれのある物 | 一定の危険物及び有害物 |
製造・輸入・譲渡・提供・使用の禁止 | 大臣の製造の許可 | ※②の物質を含む⇨譲渡・提供の際に表示等 |
有害物の製造等の禁止(55条)
(55条)
黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない。
以下のような強い毒性や発がん性のあるなどの労働者に重度の健康障害を生ずる物については、製造等を禁止して、厳しく規制しています。
※譲渡:有償・無償を問わず、所有権の移転を伴う行為を指します。
※提供:所有権を留保したままの「渡す」という事実を指します。
(例えば、物品の塗装の場合、物品の所有者が修理工場に塗料を引き渡し、
その塗料を修理に使用することを要請するようなケースを言います。)
●製造等の禁止物質(令16②)
1 | 黄りんマッチ |
2 | ベンジジン及びその塩 |
3 | 4‐アミノジフエニル及びその塩 |
4 | 石綿 |
5 | 4‐ニトロジフエニル及びその塩 |
6 | ビス(クロロメチル)エーテル |
7 | ベータ‐ナフチルアミン及びその塩 |
8 | ベンゼンゴムのり |
9 | 上記❷❸❺❻❼に掲げる物をその重量の1%を超えて含有し、又は❹に掲げる物をその重量の0.1%を超えて含有する製剤その他の物 |
※黄りんマッチ:黄りんは極めて毒性が強く、急性中毒の場合は心臓麻痺により死亡するおそれもあります。
※ベンジジン:主に染料として使用されていた物質で、吸入すると膀胱がん等を発生させる危険性が高い発がん性の物質
※塩(えん):酸が中和されるときに作られる化合物
※石綿:アスベスト。肺がんや中皮腫を発症させる発がん性の物質
○出題ポイント
❶禁止される行為は、「製造、輸入、譲渡、提供、使用」と幅広く
すべて禁止されています。
❷試験研究のための例外
試験研究のために製造、輸入、使用する場合は、次の2つの要件を
満たす場合には、例外的に認められています。
①あらかじめ都道府県労働局長の許可を受けること
②厚生労働大臣が定める基準に従っていること
有害物の製造等の許可(56条)
労働者の健康に重大な悪影響を及ぼす有害物のうち、特に有害性の高いものについては、前述のとおり製造等を禁止していますが、やむを得ない理由により製造が必要とされている有害物については、製造のみを許可制とし、製造過程において厳しく規制しています。
(56条)
ジクロルベンジジン、ジクロルベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずるおそれのある物で、政令で定めるものを製造しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の許可の申請があつた場合には、その申請を審査し、製造設備、作業方法等が厚生労働大臣の定める基準に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
3 第一項の許可を受けた者(以下「製造者」という。)は、その製造設備を、前項の基準に適合するように維持しなければならない。
4 製造者は、第二項の基準に適合する作業方法に従つて第一項の物を製造しなければならない。
5 厚生労働大臣は、製造者の製造設備又は作業方法が第二項の基準に適合していないと認めるときは、当該基準に適合するように製造設備を修理し、改造し、若しくは移転し、又は当該基準に適合する作業方法に従つて第一項の物を製造すべきことを命ずることができる。
6 厚生労働大臣は、製造者がこの法律若しくはこれに基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反したときは、第一項の許可を取り消すことができる。
(平一一法一六〇・一部改正)
●製造許可物質(令17)
1 | ジクロルベンジジン及びその塩 |
2 | アルフア‐ナフチルアミン及びその塩 |
3 | 塩素化ビフエニル(別名PCB) |
4 | オルト‐トリジン及びその塩 |
5 | ジアニシジン及びその塩 |
6 | ベリリウム及びその化合物 |
7 | ベンゾトリクロリド |
8 | 上記❶〜❻に掲げる物をその重量の1%を超えて含有し、又は❼に掲げる物をその重量の0.5%を超えて含有する製剤その他の物 |
これらの物質による障害事例として、皮膚障害、尿路系の腫瘍、気道障害、肺がん等が報告されています。これらの物質と健康障害の関連性が明確ではないため、製造のみ許可制としています。
○出題ポイント
❶許可制になっているのは「製造」のみです。その他の「輸入、譲
渡、提供、使用」は許可が不要です。
❷厚生労働大臣の製造の許可です。(都道府県労働局長ではない)
❸厚生労働大臣は、許可申請を審査して、製造設備、作業方法等が
厚生労働大臣の定める基準(許可基準)に適合していると認める
ときでなければ、許可をしてはいけません。(56条②)
危険物及び有害物の表示等(57条)
化学物質の取り扱い作業では、その危険性・有害性を知らずに作業を行っていたことによる爆発、火災、中毒等の災害が多発しています。このような災害を防止するために、その危険性・有害性等の情報が労働者及び事業者に確実に伝達させる方法として、表示等の制度を設けています。
譲渡・提供時の表示・文書交付制度の概要
本制度は大きく以下の3つに分類されます。
①表示の義務 | 約110物質 | 最も危険・有毒な化学物質 |
②文書交付の義務 | 約640物質 | |
③表示・文書交付の努力義務 | 約6万物質 | その他の職場で使用される すべての危険有害な化学物質 |
①表示の義務(ラベル表示の義務)(57条)
(57条)
爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第一項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。
一 次に掲げる事項
イ 名称
ロ 人体に及ぼす作用
ハ 貯蔵又は取扱い上の注意
ニ イからハまでに掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
二 当該物を取り扱う労働者に注意を喚起するための標章で厚生労働大臣が定めるもの
2 前項の政令で定める物又は前条第一項の物を前項に規定する方法以外の方法により譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項各号の事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。
(昭五二法七六・平一一法一六〇・平一七法一〇八・平二六法八二・一部改正)
○出題ポイント
❶例外として、容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用
に供するためのものについては、表示義務はありません。
❷タンクローリーによる輸送等のように、容器又は包装を用いないで
譲渡し、又は提供する者は、(ラベル表示ができないため、)表示
事項等を記載した文書を相手方に交付しなければなりません。
②文書交付の義務(57条の2)
(57条の2)
労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は第五十六条第一項の物(以下この条及び次条第一項において「通知対象物」という。)を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により通知対象物に関する次の事項(前条第二項に規定する者にあつては、同項に規定する事項を除く。)を、譲渡し、又は提供する相手方に通知しなければならない。ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない。
一 名称
二 成分及びその含有量
三 物理的及び化学的性質
四 人体に及ぼす作用
五 貯蔵又は取扱い上の注意
六 流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
七 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
2 通知対象物を譲渡し、又は提供する者は、前項の規定により通知した事項に変更を行う必要が生じたときは、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により、変更後の同項各号の事項を、速やかに、譲渡し、又は提供した相手方に通知するよう努めなければならない。
3 前二項に定めるもののほか、前二項の通知に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
(平一一法四五・追加、平一一法一六〇・平一七法一〇八・平二六法八二・一部改正)
○出題ポイント
❶例外として、主として一般消費者の生活の用に供される製品として
通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、文書の交付等
による通知義務はありません。
❷通知した事項に変更を行う必要が生じた時には、文書の交付等の方
法により、変更後の事項を、速やかに、相手方に通知するよう努め
なければならない。
③表示・文書交付の努力義務
「①表示の義務」にも「②文書交付の義務」の規定の対象になっていない職場において使用されるすべての危険有害な化学物質(約6万物質)については、「表示・文書交付の努力義務」があります。
❶表示等の努力義務(則24の14)
「①表示の義務」の規定の対象にならない化学物質等(危険有害化学物質等)を譲渡し、又は提供する者は、表示事項等を表示するように努めなければなりません。
❷文書の交付等の努力義務(則24の15)
「②文書交付の義務」の規定の対象にならない化学物質等(特定危険有害化学物質等)を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付等の方法により、通知事項を相手方に通知するよう努めなければなりません。
なお、特定危険有害化学物質等とは、危険有害化学物質等から通知対象物を除いたものです。